デフレ脱却?~中小企業の対応~
7月に入って、2013年度の経済財政白書の原案が公表された。この原案では、日本経済は「長引くデフレから反転する兆しが表れている」と記載されている。
1998年から日本経済は15年もの長いデフレが続いてきた。その長期のデフレに転機が来たと言われている。大胆な金融緩和政策により円安・株高が進行し、消費者物価指数もようやくマイナス圏から抜け出しつつあるようだ。
実用品でも価格が高めでも質の良いモノを選ぶ消費者が増えている。スーツや靴、家具などで単価の高い商品の売れ行きがいいそうだ。
株高による資産増加が功を奏してまず高級ブランドや宝飾品の売り上げが伸びたという。消費マインドの改善に加え、夏の賞与の増加や物価の先高観もあり、ワンランク上の消費を押し上げているようだ。
節約志向が根強いスーパーでも高めの商品を選ぶ動きが出始めている。日本経済新聞によるとある大手スーパーでは、6月、すしの平均単価が前年比1割上昇した。高級スーパーではシャンパンの売り上げが5%増え、4千円台前半の高めの商品が人気だという。
ここ京都でも、生活者として小売店をめぐると同じような傾向があることに気が付く。しかし、大手中心の動向とも受けとめられる。
今月、訪問をさせていただいた中小企業の中には、高級商品の導入や、既存商品の価格改定に踏み切れないでいる企業が少なからず存在しているのが事実である。
15年というあまりに長いデフレを経験してきたために、デフレ体質が身についてしまっていてそこからの脱却ができないようである。
中には、円安等によって原材料の仕入れ価額が上昇し、その結果、月々の売上総利益が減少してしまった企業さえある。財務的に危機的な状況である。
ある経営者の話によると、「日々、現場に出て、顧客のニーズは十分に分析していて理解している。価格転嫁をすると売れない」そうである。
はたして、本当にそうなのだろうか。
長引くデフレに対応するため、コスト削減に努めてきた。そのため、今も従業員の人数も最小限で販売業務を行っている。商品の細部にわたるまでの説明の時間は、とれていそうにもない。「とにかく安くしないと競争に勝てない」と経営者は言われる。顧客は、本当に低価格だけで満足しているのだろうか。
また、別の経営者は言われる。「原材料のコストを下げるため、原材料のランクを下げた」と。
有名な大手ファストフードも、高価格商品の提供を試験的に始めているにもかかわらずだ。
私は、商品への価格転嫁を推奨しているわけではない。財務状況が価格転嫁せずに安定するのであれば、それに越したことはないのである。
しかしながら、この先、原材料の高騰はある程度予想されるところが多い中で、財務の安定を考えると、いつでもそれが出来るだけの体制を整えていく必要があるということは考えておかなければならない。
仕入価格の上昇のみならず、来年4月の消費税増税も然りである。今年10月から、中小企業・小規模事業者の円滑かつ適正な価格転嫁をサポートするため「消費税転嫁対策特別措置法」が施行されるが、来年の4月に向かい、しっかりと顧客を満足させる製品・商品・サービス内容でないと、顧客の満足は得られないと思う。
とある企業の経営者に「この先の市場動向を、中期的な視点に立って検討し、サービスの仕組みや商品のラインナップを再考されてはいかがでしょうか。」と提案したいたところ、その2週間後、兼ねてより温めてきた「専門分野を越えて、幅広い視点に立った人材を育成するためのプロジェクト」をスタートされた。
半年先、一年先を見守っているところである。
商品の価格転嫁や、高級商品の導入が成功している企業は、それまでに多大な時間をかけて市場調査や分析を行っているように見受けられる。
この先のデフレ脱却市場を生き抜くためには、このあたりが勝敗の分れ目になるのではないかと思う今日この頃である。
(参考文献 財政経済白書原案 日本経済新聞7月14日朝刊)